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JAF全日本ジムカーナ選手権において前人未到の『12回』のチャンピオンを獲得し、’04、’05と連続してSUPER GTシリーズチャンピオンも獲得するなど自動車競技の第一線で活躍する山野哲也氏。特にジムカーナにおいては長年にわたってビルシュタインダンパーを通じてエナペタルの良きアドバイザーとしての関係を構築してきました。
そんな山野哲也氏の目から見た「足回りについて」や「ビルシュタイン」についてのコラムを掲載して行きます。

山野哲也プロフィールへ。

第一回 サスペンションって何だろう
第二回 スプリングやダンパーの機能がわかってきた
第三回 セッティングという領域に突入
第四回 サスペンションシステムの理想と将来像

第一回 サスペンションって何だろう

みなさんこんにちは。山野哲也です。2006年度はボクがこのページを担当することになりました。
無類のクルマ好きとしての幼少時代を過ごし、レーシングドライバーとして生活するようになった今までに、クルマといろいろな"対話"をしてきました。そのなかで、サスペンションというパーツに対して異様なくらいに興味を持っている自分としての考え方や意見を伝えていこうと思っています。

サスペンションとの出会いはミニカー。子供のころからクルマのおもちゃ好きだったのでミニカーはいわば宝物。
そのミニカーは上から押すとタイヤが上下する。なんでだろうといつも思っていたらあるとき壊れて中から板バネが露出。ハハーン、この板がシナるからタイヤが上下するんだ。でもなんでこんなものが必要なのかはしばらくわからなかった。
小学校に上がり、バスに乗る機会が増えた。運転にあこがれていたからいつも一番前でドライバーの操作を見ていた。ドライバーはブレーキを踏むたびに「プシュン、プシュン」と音をさせ、そのたびに車両の前部が下に沈む。バスにもいろいろな型があったから、その沈み方にもソフトなバス、ハードなバスがあったのも覚えている。そしてラジコンを手にしたとき、スプリングとダンパーがついていて構造をはじめて理解したんだ。
高校生のとき、渡米した。フォードやシボレーがものすごくソフトで大きく揺れるけど乗り心地はいい。日本車は大きくは揺れないけど、キビキビした走りができる。アメリカ人と日本人の体型や生き方も違うけど、クルマもこんなに違うんだなあってあらためて感じたね。
あるとき、父親の乗っていたトヨタクレシーダを勝手にジャッキアップしてリヤのダンパーをはずしてスプリングのみで走ったんだ。そうしたらクルマの動きがガラッと変わっちゃった。というよりバウンシングが止まらない。フリーウェイを走っているとリヤが沈んでは飛び上がり、沈んでは飛び上がりの連続。周りのドライパーに「どうしちゃったの??」的な視線で見られてとても恥ずかしかった。
そのあとはダンパーをもとに戻して、スプリングをはずして走行。今度はお尻が痛くなるくらいに乗り心地が悪いし、コーナリングもブレーキングも暴れちゃってかえって不安定。こりゃどっちもダメだ〜って。その後も自分のカローラでスプリング切ったりダンパーをクレシーダと交換したりしたけど、ごくフツーにスピンしたりして…まともに走れたことはなかったね。
いろいろな実体験を経て、スプリングとダンパーがほどよくマッチしてはじめてクルマがちゃんと走るってことがわかったんだ。後々、この経験はとても大きな財産になった。

「サスペンション」って本来の意味は「つるす、ぶらさがり、浮遊、一時停止」。
つまりエンジンやボディなど、重量物のほとんどはサスペンションの上に乗っかっていて、それはとても不安定なもの。クルマを安定させるのはサスペンションというものが大きな役割を果たしているし、その中でも常時大きく動いているパーツはスプリングとダンパー。車両重量やアームの形状、装着しているタイヤ、走る場所などによって大きく左右されるサスペンションの性能は容易にはセッティングできないもの。この難しさが楽しさとなりハマッてしまい、レースや開発のお仕事までやるようになったんだろうね。

クルマにとって永遠の課題となりそうなサスペンションセッティング。タイヤやエンジン、ブレーキの性能を引き出す直接的なこのパーツ、次回はさらに掘り下げた話をしよう。

第二回 スプリングやダンパーの機能がわかってきた

前回は免許とりたてのころの話をした。クルマの本来の機能をメチャクチャにしてしまった時代だったけど、帰国してから少しずつかしこくなってきたんだ。というのは、大学の自動車部に所属したことによってジムカーナやラリーといった競技をはじめたからまともに動くクルマが必要。当然、アブナイマシンでは壁に直行!ってなるわけで、はじめてサスペンションをまじめに考えるようになった。当時はスプリングを変更できないレギュレーションが一般的だったからダンパーが命。パドックではみんなダンパーの話で盛り上がってた。国産のダンパーを使用するドライバーが多いなかで海外ブランドのダンパーもシェアが上がってきたころだ。「あのメーカーのダンパーはすぐ抜けちゃうぞ」とか「このメーカーのダンパーは吸い付くように曲がるぞ」とか。なにがいいのかわからないけど、とりあえず最初に購入したのは国産の最も安価なモノ。たしかに硬くは感じるんだけどロールはとてもするんだよね。しかもバンピーな路面に弱い。うねりや段差、コーナーのゼブラゾーンに乗るとバンバン跳ねちゃう。ナビシートの友人もいつも頭がピョコピョコ上下してた。(笑) 

CR-Xに乗り換えたとき、国産のダンパーが市販されていなくて困ってしまった。お世話になっていたコクピット川越の皆川社長が「ビルシュタインならできるぞ。高いけど。だまされたと思って買ってみな〜。絶対好きになるよ。」と。社会人一年生だったボクは給料を全額使ってエナペタル製のダンパーを購入。オオーッ!なんだこれはー!コクピット川越の角の交差点を曲がった瞬間にそのフィーリングに圧倒されてしまった。クルマの屋根が上下しない。でもしっかりグリップしている。なのに乗り心地がソフト。そしてオン・ザ・レール。これがビルシュタインのなせるワザなのか!と感動したことをいまでも明確に覚えている。

その後大阪のチャレンジャーと出会い、スプリング変更やアライメント、スタビライザーやブッシュなどサスペンションを構成するパーツやセッティングをいろいろと試す機会が増えた。いや〜すごいすごい。クルマってサスペンションパーツをちょっと変えるだけでこんなに動きが変わるんだー。タイヤメーカー、ブレーキメーカーなどがスポンサーとしてつきはじめたころ、エナペタルもスポンサーとしてパートナーシップが結ばれることになった。つまり、ダンパーの減衰力やガスの量など、さらに細かいチューニングが可能になったってこと。ボクのカラダにはいろいろな変化に対する引き出しや動きを感じる能力がいつの間にか増えていった。でもその背景にはたくさんの失敗があったことも隠せない事実でもあるんだ。

あるとき、カートコースで行われた全日本ジムカーナ選手権。思いのほかハイスピードなレイアウトとなった。ダンパーのガス圧を上げてロールをさせない方向に持っていったものの、そのデメリットが出てしまった。コーナリングスピードは高くなったけど、ブレーキングやコーナー立ち上がりのトラクションがかからない。さらにギャップではマシンが暴れる。必死にねじ伏せたものの、優勝を逃し、チャンピオンタイトルが夢となってしまった。自分でオーダーした仕様だから仕方ない。でもその悔しさと失敗がさらに自分を発展させるいいチャンスになり、のちに夢を現実に変えることとなった。

そのころわかってきたこと…角張った特性はメリットとデメリットの差が極端になる。角を丸くすることでむしろ全体のキャパシティが増える…その結果「速くて安定」したマシンが造れるんだと。これもまた新たなサスペンションの機能や特性を理解した瞬間だった。

第三回 セッティングという領域に突入

1992年、シリーズ化されたJAF全日本ジムカーナ選手権で初代チャンピオンを獲得した。ボクにとっては夢のタイトルを手にしたんだけど、いま思えばサスペンションという機能とタイヤの性能を引き出しはじめたころだったんだろうなあ。CR-Xというクルマはホイールベースが短くアンダーステアもオーバーステアも激しく出現するマシンだったので、バランスの取れたセッティングが必要だった。ドライバーの意思に反した動きはタイムロスを生む要因。もちろん、1/1000秒を争うジムカーナでは致命的だ。路面温度が低くてスリッピーでも、グリップが高くても、ギャップが多いコースでも、北海道戦から九州戦まで安定した速さがなによりの勝因となる。その年のテーマは「自由自在」。ドライビングテクニックもマシンセッティングも両面に求めた課題だったね。アンダー、オーバー、どちらもドライバーの意思により引き出せる。それがコントロール性の向上となり優勝に大きく貢献したんだ。

しかし、マシンが変わると考え方も変わってしまった。1993年、シビックEG-6に乗り換えたものの3戦消化した時点で9位、13位、13位。自信喪失するほどだったけど“こんなんじゃいけない!”と自分自身を奮起させ、猛烈な勢いでテストを繰り返した。タイヤ、ブレーキ、ブッシュ、スタビライザー、スプリング、ダンパー、そしてドライビングスタイルも変えた。結果、後半戦の優勝を含んでシリーズ2位まで追い上げた。ヒントはタイヤだった。純正の15インチから14インチにダウンさせたところ、1秒〜2秒速いことがわかった。ブッシュも一部ノーマルに戻したら動きがどんどんよくなった。肝心のサスペンションセッティングが15インチに合わせきれてなかったこともわかったんだ。

翌1994年は同じマシンながらシーズン初戦から連勝することができた。マシンもボディ補強を施し、フルブッシュを入れ、15インチのタイヤも装着。サスペンションもそれらに合わせ込むことができた。15インチでは遅かった前年度とは全く逆の結果になったわけはなんだろう…それは“バランス”だった。自由自在であってもクルマに装着するパーツの剛性がバラバラだと気持ちよく走ってくれない。たとえば「筋肉は強いのに関節が弱い」「骨は強いのに握力がない」など、人間にたとえるとわかりやすいかもしれない。速く安定して走らせるためにはすべてのバランスをうまくとることが大事なんだなあと実感した2シーズンだったね。

クルマには生まれ持った骨格や性格がある。いわゆるフレームボディは重要。そこからブッシュ類を介してサスペンションアームが取り付けられ、さらにその先にブレーキやタイヤがある。それらが好むサスペンションチューニングをしていきたいと思っている。たとえば、ホンダのエリシオンは“クルーザー”のイメージで設計されている。だからクルーザーの延長線上のセッティングを施せばクルマは嫌がることはない。S2000は“コーナリングマシン”として世に送り出された。ならば、コーナリングマシンの延長線上でチューニングすればさらにポテンシャルが上がる。BMWは「ヨーロッパの国々を安全にスポーティに高速移動すること」がユーザーから求められている。クルマそれぞれに生まれた背景までもが見えてくるような気がする。

近年、“exmotion”というブランドを立ち上げた。それは“極上の運動性能”を意味させている。スポーツカーにはレーシングライクな、ツーリングカーにはスポーティな、ワゴン車には快適な空間を…それぞれのクルマが好むサスペンションキットを提供するのが自分自身のひとつの生き甲斐にもなっている。クルマが好むサスペンションをより理解できるようになったのは、レース活動から勉強したことがとても多い。

第四回 サスペンションシステムの理想と将来像

4回にわたり担当してきたこのコラム。最終回の今回はサスペンションシステムの理想と将来について想像してみたいと思う。ボク自身、クルマのステアリングを握るようになってからおよそ25年が経過した。でも「クルマにとって、またレーシングマシンにとってのベストなサスペンションはなにか..」と問われると明確な答えは出せないでいるのが現状だ。たとえば、同じサスペンションキットを装着したクルマをドライブしたとき、Aさんは「固い!」、Bさんは「柔らかい!」という。サーキット走行をしたとき、Cさんは「アンダーステアだ!」、Dさんは「オーバーステアだ!」という。こんな状況のなかでベストなサスペンションなど、存在するわけもない!って結論付けたくなってしまうね。とはいえ、過去のレースやテストを繰り返してきたなかで、次のようなことがわかってきた。

1.クルマに適したサスペンションは設計された時点である程度決まっている。
しかし、その反面、
2.ドライバーの感じ方や使い方は千差万別である。
つまり、いいサスペンションとは“クルマと使用用途”の両方の融合によってはじめて絞込みができるということだろう。
さらに重要なこととして、
3. 安全な走りを提供できること。
いくら一発のタイムが速かったり乗り心地がよかったりしても、ジャダーやピッチング現象などでクルマが上下に暴れまくったり、底付きや干渉などで正常な動作を与えられなかったとしたら、それはいいサスペンションとは言えない。また、タイヤの磨耗が早かったり、グリップ感の伝達が乏しくドライバーに心理的な不安感を与えるサスペンションもNGだろう。

ボクはひとりのテストドライバーとして、またサスペンションチューナーとしていつもおこなっていることは“対話”だ。クルマにとってベストに近いバランスをベースに置きつつ、依頼主の使用用途をよく聴くようにしている。装着するタイヤや車高のダウン値、走るステージなどのほかに、過去の失敗談、成功例、クルマに求める理想像などなど。たくさん対話すればするほど、ボクのなかでイメージがわき、それらを踏まえてセッティングすることができるようになる。サスペンションキットをつくることそのものは難しいことではない。しかし依頼主の理想に合わせるには話しをしてはじめてわかることがとても多いし、それができてはじめていいモノが提供できるのだ。

さてサスペンションシステムは将来どうなっていくのだろう??本来、クルマに装着されているサスペンションシステムはとてもオーソドックスなつくりだ。アームやブッシュ、スタビライザーもサスペンションのベースという意味では大事だが、乗り心地やスポーツ性など「クルマの動き」に大きく影響しているのはやはりスプリングとダンパー。比較的新しいシステムとして、エアサスや減衰力調整式のタイプも出てきてはいるが、自動調整ではなくドライバーの意思によるマニュアル操作が一般的だし、まだまだ開発の余地は十分に残されているものだと思う。

一時期のF1ではアクティブサスペンションというものが存在していた。レギュレーションにより廃止になってしまったが、現在考えられる究極のサスペンションだと言えるだろう。マシンの速度、タイヤのグリップ力、路面のμや傾斜角、さらにはステアリングスピードなど、様々な情報を読み取り、その場その場でスプリングレートやダンパーの減衰力を変化させて対応していく。目的に応じて「最高の乗り心地になるように」や、「最高のグリップが出るように」というモードをインプットしておけばいつも理想の動きをクルマ側でオートマチックにつくってくれる。そんなサスペンションシステムが採用されたら驚がく的なことだろうな。

人間にとって“足”は生活からスポーツまでとても重要な役割をしている。裸足で歩いているとき、サンダルを履いているとき、忍び足で歩くとき、走るとき、砂の上を歩くとき、石の上を歩くとき、泥の上をあるくとき、コンクリートの上を歩くとき、ジャンプするとき、着地するとき…人間の足はその場その場で対応してくれる素晴らしい順応性を持っている。それに比べればクルマのサスペンションシステムはまだまだ遅れている。

不可能と言われてきたロボットの2足歩行が一般化してきたように、クルマにも目的に応じたアクティブサスペンションが標準化される日もそう遠くはないかもしれない。制御する頭脳が必要だが意外と簡単な気がする。ボク自身、生涯の仕事のなかで、オーソドックスなサスペンションキットの開発はもちろん、アクティブサスペンションの開発等もおこない、それを世に出すことができればこの上ない幸せなことだと思っている。真のクルマ好きにとってはたまらない“次の課題”だ。


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